この照らす日月の下は……
14
「では、また会いに来るからの」
そう言い残して三人は帰って行った。
まるでその代わりというようにアスランがキラの家に入り浸るようになったのはどうしてだろう。
「レノアさんが今日も遅いんですって」
アスランの父は仕事のためにプラントに残っているらしい。だから、アスランはレノアと二人暮らしなのだ。まだ四歳の彼を一人で部屋に残しておくのはレノアもカリダも不安なのだろう。
それはキラにもわかる。
自分だったら一時間でも一人で留守番は出来ないかもしれない。
それでも、だ。
アスランがいる間はいるものように母に甘えられない。それがちょっと辛い。
それ以上に辛いのは、ぼうっと考え事をしているだけでアスランにあれこれ声をかけられてしまうのだ。
自分で答えを出したいのに、彼が先回りをしてしまうこともある。
自分で考えたいのに、と何度も文句を言った。だが、アスランは『だって、キラは考え出すとすごく長いんだもん』と言い返してくる。自分が考えて動いた方が早いだろうと彼は続けた。
しかし、それでは自分は何のためにここにいるのかわからない。
「早く結論が出れば、それだけたくさん遊べるよ?」
その方が正しいだろう、とアスランは悩んでいるキラを尻目に平然と口にする。
「僕はキラが好きだから手伝ってあげているんだよ」
しかも、理由がこれらしい。
これでは文句を言えないような気がする。
でも、とキラはまたぐるぐると思考が回り始めるのがわかった。きっと自分だけでは結論が出ないだろうと言うことも、だ。
こういうときは誰かに相談すればいいのだろうか。
しかし、ラクスはプラントだし、サハクの双子やムウ達は忙しいような気がする。
「どうしたの、キラ」
考え込んでいたのが気に入らなかったのか。アスランがこう問いかけてきた。
「メールの返事を出すの、忘れてたの、思い出しただけ」
とっさにこう言い返す。
「ふぅん」
でも、これならばみんなにかける迷惑が少ないのではないか。すぐにそう思う。
「今はどうでもいいことだよね。それよりもそばにいる僕を優先して」
だが、アスランはそれを邪魔してくれる。
「本を読もうよ、ね」
こう言いながら、彼はソファーの方へとキラを引っ張っていく。それにキラは素直に従うしかなかった。
レノアがアスランを迎えに来てからすぐ、キラはパソコンへと手を伸ばす。
「キラ?」
もう遅い時間でしょう、とカリダがすぐに注意の言葉を口にする。
「ギナ様と約束したの。毎週、ちゃんとメールしますって。今週、アスランが来てたから、かけなかったの」
とりあえずこう言い訳のことばをを口にしてみた。
「確かにアスランくんとべったりだったものね」
それはカリダも否定できないのだろう。小さくため息をついてみせる。
「だって、アスランが『一緒に』っていうんだもん」
「アスランくんも寂しいのよ。レノアは今、解析が佳境なんですって。だから、なかなかアスランくんと過ごす時間をとれないらしいの」
我慢してね、と付け加えられたような気がするのは錯覚ではないだろう。
「キラの方が大きいんだから」
もっとも、さりげなく付け加えられたこの言葉には首をかしげずにいられなかったのだが。
「僕もアスランも同い年でしょう?」
それなのに、と問いかけた。
「キラの誕生日の方が半年早いのよ」
「……そうなんだ」
「でも、アスランくんの方がしっかりしているけどね」
それは言われても仕方がないとキラも思う。
「書いたらお風呂よ」
落ち込みかけたせいで危なくカリダの言葉を聞き逃すところだった。
「ママ、ありがとう!」
そういうとキラはカリダに抱きつく。
「早く終わらせるのよ」
「うん。書くことは決まっているから」
そして笑って見せた。